ハナヨウヒン ボタン

「日本のアパレルはどうなってるの?」

※長文です

皆さんは普段自分が買う服が、どのように作られているかを知っていますか?

長文になってしまいますが、アパレルの今と未来、服との関わり方について私がお伝えしたことをまとめました。

日本で出回っている洋服の90%以上は海外で作られています。

アジアや新興国の労働力によって、一昔に比べて品質も保たれた安価な服を沢山作れるようになりました。

その多くはファストファッションや量販店に並べられます。

その裏側にあるアパレルの問題を今日は書こうと思います。

私は小学生の文集で夢はデザイナーになることと書くぐらい服が好きな子供でした。

アパレルに足を踏み入れて10年ほど経ち、最終的にあるラグジュアリーブランドに身を置き、一通り流通やビジネスの成り立ちまで直近に見ながら携わってきました。

決して服が好きなだけでは残っていけないこと、続けるためにあらゆる手を打ち顧客を喜ばせ続けなければならないことも身を持って知りました。

けれど、ビジネスだと割り切り今さえよければいい時代はもう終わりです。

地球のどこか一部だけが潤うのでは、地球の生命そのもののバランスがますます崩れていってしまうのです。

よろしければ読んで頂けると嬉しいです。

もくじ

アパレルとファストファッションから生まれる問題とは

ファストファッションと呼ばれる”ファストフードのように気軽に買える流行の服”は、2000年頃からあっという間に世の中に浸透していきました。

経済産業省が2020年1月にまとめたレポートによると、日本に出回っている全ての服のうち、2000年の時点で輸入のものが80%。

それが2018年には、98%を占めるまでになりました。

日本にある全ての服が1000枚だとすると、そのうち980枚が他の国で作られているということになります。日本で作られているのはたった20枚。

皆さんどうお感じになるでしょうか。

いつも買う服が何処でどんなふうに作られているか、そこまで気にかける方は少ないかも知れません。

日本国内で生産されているアパレル製品はどのようになっているのでしょう。

2000年時点で国内総出荷額は5.5兆円だったのが、2018年には2.8兆円と、18年間で約半分にまで規模が縮小しました。

また2000年頃には3万程あったアパレル繊維事業者の数も、2018年には約三分の一の1万程と激減。

なぜ、この20年でここまで日本で服を生産することが減ってしまったのでしょうか?

世界共通で言えることですが、ファストファッションと言われるブランドがファッション業界に布石を置いたところから変化は始まります。

「ファスト」とはその言葉通り「早い」という意味。

一体何が早いのでしょう。

それは「生まれてから消えるまでのサイクル期間」です。

ファストファッションは通常、デザイン決定から生産、発送、店舗での展開までを、わずか数週間で繰り返します。

ファストファッション 問題
Photo:VOGUE JAPAN

買う側は、ファストフードでポテトを注文する手軽さで、流行の服を安く手に入れられる。

しかしその裏側にある犠牲がどれ程のものか、表から計り知ることは出来ないままなのです。

今、日本で廃棄される洋服の数は年間30~40億着にものぼります。

98%を海外から輸入しているにも関わらず、年間100万トンもの服が焼却処分されています。

量がどのぐらいなのかピンと来ないかもしれません。

大量に作った服は売れ残ったりシーズンに合わなくなるとお店から引かれて新品のまま廃棄されます。

なぜ新品にも関わらず廃棄しなくちゃならないのでしょう。

一つは、企業の利益を守ためです。

もし売れ残った新品の服を二時的に販売したらどうなるでしょう。

商品全体の価値が下がってしまいます。すると新商品を出しても売れなくなっていきます。セールと同じですね。もう少し待てば安く買える、今買う必要がなくなるからです。

もう一つ、ファストファッションはトレンドをスピーディに取り入れることで成り立つビジネス。

なので、企業デザイナーはトレンドに沿った売れるデザインを考えます。

次々に新しいデザインを作って送り出す。

それを繰り返すと必然的に着られなくなった大量の洋服が出てしまいます。

もし作ることを止めたら、トレンドを追うファストファッションビジネスは成り立たないのです。とにかく新しいデザインを作り続けなきゃならない。

最後に、アパレル業界は在庫切れを嫌います。

何故なら、商品が予想以上に反響があって売れた場合、その機会を失うことをとても恐れているから。

数量限定の美味しい食べ物は人を惹きつけるものですが、多くの大手アパレルは残念ながら、人々を魅了出来るほど価値ある商品を作ることが出来ていません。

海洋汚染に関して、アパレルは2番目に海を汚染する産業だそうです。

焼却した洋服が自然に還元されるのは50年前後、化学製品に至っては何百年単位でかかるとの研究結果も出ています。

アパレル 環境問題

世界第2位のアパレル生産国バングラディッシュ


2013年、ファストファッションに携わるバングラディッシュの労働者が違法建築が原因の事故によって、多くの命が奪われたラナプラザの事故。記憶に新しい方もいるのではないでしょうか。

現在の日本は98%のアパレル製品を輸入していますが、2019年時点で57%が中国、15%がベトナム、4%がバングラディッシュとカンボジアとなっています。

日本の企業が生産拠点を海外に移し始めたのは、2000年前後。

個人的に、ファッションと他のアートの結び付きが薄れていったのも2000年が境だったと認識しています。

まず生産の拠点となったのが中国。日本から指導員が駐在し、工場の生産性と技術面を管理教育した結果、現在の中国はとても高い縫製技術を持つまでになりました。

経済発展の面においても中国は、GDP(国内総生産)で2010年に日本を抜き、現在世界第2位です。2020年時点では日本の倍以上の14000(10億ドル)となっています。

中国の経済発展に伴い、更に安い労働賃金を求めて企業はベトナム、バングラディッシュ、カンボジアへと拠点を広げました。

皆さんご存知のように、発展途上国と呼ばれる国では国による安全の保障や、生活の担保がされないまま、まだ多くの人が厳しい生活を強いられているのが現状です。

アパレル 問題
Photo:VOUGE JAPAN


確かに雇用の面では、以前より向上するかも知れません。

しかし、その労働環境の劣悪さは2013年の工場崩壊事故で明るみに出るまで、諸外国に知らされないままでした。長時間労働、違法に建築した建物がさらす危険性、管理者によるパワハラや嫌がらせなど。

2013年に起こったラナプラザ崩壊の事故は、前日に従業員が建物の異変に気付きマネージャーに報告したにも関わらず防ぐことが出来なかった。あってはならない事故です。

バングラデイッシュは国を挙げて縫製産業に力を入れており、1990年代から500万人以上に国民がアパレル産業に従事し、総輸出のうち80%を占めるまでになりました。

しかし、2012年時点で国民全体の45%が縫製業に携わっているにも関わらず、国民総所得のうちアパレル従事者は5%しか占めていないという調査結果が出ています。いかに低賃金なのかが表れています。

ファストファッションの製造を請け負う工場は、日々生産枚数に追われ、管理者は労働者が早く大量に作ることを担わされます。

その工場を所有しているのは、90%以上が地元の株主。

国と株主の癒着により、労働基準も守られていなかったり、住居だった建物を違法に改築したりと、利益の追求だけを追ってきた代償はあまりにも大きかった。

ラナプラザの事故に世界中が注目したことで、ようやく国も地元の有力者も動かざるを得ない状況になったのです。それまでも火災や崩壊は頻繁に起こっていたそうです。

工場で働いているのは多くが18~35歳ぐらいの若い女性達。

ラナプラザの事故前日に、マネージャーに建物の異変を報告した従業員含め、危険を感じて建物に入ることを拒んだ従業員に管理者は言ったそうです。「通常通り仕事をしないと解雇するぞ」と。

「そのようなことがあるとは知らなかった」と外国の企業が動き始めました。

アコード協定とは

アパレル 問題
Photo:CONTRAD


その後『バングラディッシュにおける火災予防、建物の安全性に関わる協定(=アコード)』が欧米諸国の企業(約150社)により締結されました。

その中で一部北米の企業(約26社)は、バングラディッシュへの管理支援活動に対して法的拘束力があることから、独自の協定を作りました。(=アライアンス)

会員企業から資金を集め、工場の査察と訓練を行うアコードの活動は、劣悪な労働環境を強いられていた労働者に安全の確保を提供し、透明性を担保することとなりました。

査察によって、工場が建築基準に満たない場合は政府に報告し、工場を強制的に停止します。アコードの会員企業に日本から登録されているのは、現在ユニクロ一社となっています。

しかしアコードの活動任期は5年間とバングラディッシュ政府から定められたことにより、2018年にバングラディッシュ裁判所から活動を終えるよう通達されました。

アコードによって、工場内部の透明性と安全性を確保する取り組みが成されたわけですが、撤退してしまえばまた以前のように危険な環境に戻る。

何とか国の説得に乗り出し尽力を重ねた結果、今の機能を丸々引き継ぐ形でRSCという新しい機関が役割を担うこととなりました。

世界での衣料生産数が第2位のバングラディッシュが、どのような環境で現在まで服を生産し続けてきたか、理解して頂けたでしょうか。

私たちが気軽に買い、お店に行けば溢れるほど並べてある洋服は、そのような不安定な環境と低い労働賃金でなければ作ることが出来ません。

服を作ることは決して簡単ではありません。

私も服を縫うことがありますが、工程が多く技術も問われます。

一枚の服が、日本の量販店で数百円で売られることが正直信じられないのです。

その背景に、相当な労働力の代償を感じ悲しくなるのです。

気軽に手に入れられるもの程、未来を犠牲にしているのです。

生きている間だけ、自分達さえ良ければいいと言う考えの大人で居ていいものなのでしょうか。


個人的な考えの話になりますが、私は人生はトータル±0だと考えていています。

楽を選ぶほど後から大変になるし、ちゃんと力を役立てればその分が貯金になっていく。

今楽な方を選び続けることの反動は、避けられないと感じてしまうのです。

日本の生地を生かせない日本のアパレル

日本の布を生かせない理由


一方、98%の服を輸入している日本には実は多くのかたが気付いていない宝物があります。

クオリティの高い日本製の生地です。


日本の繊維市場は現在、生地の輸出割合が最も大きくなっています。

日本の繊維市場



日本繊維輸入組合2014年のデータによると、全体のアパレル総輸出額は約6600億円。(製品、生地、糸など)

うち、製品化されたものは400億円。もっとも輸出されているのが生地で3200億円。糸が1200億円、原料が1800億円となっています。


同年のフランスにおけるアパレル輸出額も見てみましょう。

総輸出額は約1.4兆円、そのうち最終製品(服)が1.1兆円。生地は2000億円となっています。

中国は2014年のアパレル総輸出額は25.5兆円。うち製品化されたものが18.3兆円、生地は5.5兆円となっています。

イタリアの総輸出額は3.4兆円。うち製品化したものが2.4兆円で、生地は7400億円となっています。

数字が示しているように、日本は製品化された服の輸出額が少なく、他国と異なり生地の輸出割合が多いです。

中国が圧倒的な額を輸出しているわけですが、先に書いたように日本の輸入量のうち57%は中国からです。

日本の企業が中国で生産したものを再び輸入しているということです。

アパレルのクリエイティブ力

アパレル



一体なぜ、日本の中で洋服を作ることが出来ないのでしょうか。

ちなみに、洋服のうち生地にかかるコストは10%〜30%前後といわれています。

生地にお金をかければ、その分販売価格も高く設定される。ファストファッションなど価格競争の激しいビジネス形態では成り立たなくなります。

しかし中には、生地のコストを40%前後までかけているブランドも存在します。そのような服の中身のことは、パッと流し見しただけでは中々知ることは少ないと思います。

世界3大素材見本市である、パリのプルミエールビジョンという生地の展示会があります。年に2 回世界のファッション市場に向けて、各地から1700前後の素材メーカーが集まります。

2016年のデータによると、最も出店数が多い国はイタリアで約670社。次いで開催国フランスで約240社。トルコ、スペインと続きますが、2017年9月の出展数において、日本からは約60社参加しています。

これは全体から見ても5~6番目に参加企業の多い国となっています。

参加企業例は、東レ、帝人、茅ケ崎紡織株式会社、福井経編興業株式会社、株式会社日東ボタン、株式会社森下メリヤス、など。生地以外にも副資材と言われるボタンや、レザーメーカーも出店しています。

実は日本には、海外のラグジュアリーブランドが魅力を感じ、実際に服に用いている生地メーカーが多くあるのです。

勘の良い方は何となくお分かりになるかも知れません。

多くの日本のアパレル企業は、自分の国にある優れた素材を活かし切る力がありません。

力とは、資金力と発想力、クリエイティブ力です。

フランスのLVMHや、ケリングなどのコングロマリット(ラグジュアリブランドの集合体)は、強固な財力と歴史を武器に、優れた技術を取り入れ、守る活動をしています。

欧州のブランドが価値あるものを作れるのは、何も財力の力によるものだけではありません。

例えばディオールやシャネルなどのブランドは、デザイナーが生地や素材の生産者と一体になって、ものづくりに取り組みます。

生地は生地、縫製は縫製、という風に服作りを分断しません。

デザイナーの力が非常に問われますし、極端に言えばデザイナー次第とも。責任を果たせなかったデザイナーは交代することになります。

日本の多くの企業は、企業デザイナーがトレンドを意識したデザインを考えて、それを別の担当者に渡し、OKになったら工場へ回す、と言うデザインの’核’が不在の状態でもの作りをしています。

いくら優れた日本の素材が目の前にあったとしても、残念ながらそれを生かすことは今の日本の大手アパレルにとっては難しいことなのです。

日本のものづくりを大切にしているブランド

日本の服 ミナペルホネン
Photo:mina perhonen


そのような日本のアパレルの現状ですが、こだわりを持って生地を選び、生産者と肩を並べながら服作りを行っているブランドがいくつもあります。

私はそんなブランドを見つけると本当に嬉しくなります。

少しだけですが載せさせてください。

・ミナペルホネン

・ヨウジヤマモト

・コムデギャルソン

・ビズビム

・D.M.G

・ベティスミス

他にもこだわりを持ち続けているブランドが日本にはあります。

これから洋服を選ぶとき、”本当に価値のあるものは一体何なのか” に立ち返って、大事にしたいと思えるものを選びませんか?

本当に気に入ったものというのは中々見つからないかも知れませんが、だからこそ探究する楽しみがあります。

大切にしたいと思えるものだけに囲まれた暮らしは、本当の豊かさと安らぎをもたらしてくれるのです。

ものを大切に扱うようになると自分のことをより大切に思うようになります。

私も経験があるので解ります。沢山買い物をしたとしても心は満たされません。よく考えもせず買ったものは、大切に出来ないのです。

どこか投げやりになって自分のことも好きになれなくなってしまう。

自分のことを好きになれないのは悲しいことです。

まずは、これを着ると自分らしいかな?ワクワクするかな?と心に耳を傾けてみるところから始めましょう。

大切なことは自分の良さが引き立つことです。

流行りだから、皆が着てるから、安いから、など頭で選ぶのではなく鏡と自分に向かって問いかけてください。

気に入った一着を繰り返し着るうちに、少しの変化で見え方が変わることに気がつくことでしょう。そうすると本当のお洒落が楽しくなります。

ベストセラーになった「フランス人は10着しか服を持たない」の受け売りではありませんが、まずは自分のチャームポイントを知ることです。

あなたが自分の個性だと感じるのはどこでしょうか。

身長や肌の色味、手首やデコルテの部分、体型だけじゃなく、持っているバッグの大きさや色のバランス、など鏡で全体をよく眺めましょう。

人からどう思われるかじゃなく、自分が自分に納得できているか。

この感覚がその人らしさを作ります。

あなたの魅力を引き立たせるには、どんなデザインを選ぶといいでしょう。

または少し隠したい部分をさりげなくカバーしてくれるデザインはどのようなものでしょう。

自分と鏡に問いかけながら、自分が主役のワードローブを作り上げていって欲しいなと思います。

大好きな服を通じて魅力を引き立たせたり、笑顔になってもらうことが私の喜びでもあります。

大変長文となってしまいましたが、最後までお付き合い頂きありがとうございました!


参考資料

:JETRO Global Trade Atlas   

:日本繊維輸入組合   

:経済産業省   

:VOGUE JAPAN

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